発想記号を含む表現の分析(第1楽章)

目次 分析表

分析表に示したとおり、標準的なソナタ形式の構造をしております。
提示部(73)、展開部(86)、再現部(71)、コーダ(18)という構成です。(数字は小節数)

第1主題部の構成を示します。

第1主題部比較表

提示部 再現部
小節 小節数 名称 調性 楽器 小節 小節数 名称 調性 楽器
1-5 4 T1a c Vn,Va,Vc 159-162 4 T1a c Vn,Va,Vc
6-9 4 T1a' c Vn,Va,Vc 163-166 4 T1a' c Vn,Va,Vc
10-13 4 T1b c Vn,Va,Vc 167-170 4 T1b c Vn,Va,Vc
14-17 4 T1c c P 171-174 4 T1c c P
18-21 4 T1a c Vn 175-178 4 T1a c Vn
22-37 16 P

Es-Es

mix 179-194 16 P Es-C mix

提示部と再現部はまったく同じ構造をしており、経過部Pの183小節でへ長調に転調をしてハ長調で始まる再現部の第2主題の用意をしているだけです。

第1主題部発想記号の比較表

提示部 再現部 コメント
小節 楽器 発想記号 小節 楽器 発想記号 発想記号
all 159 all sempre f  ピアノの音域が拡大している
26 Va none 183 Va mf 第2主題への転調で決定している
26 Pf p 183 Pf none
32-33 string molt cresc.- sff sempre 31-33 string p-cresc-f 意図的な変化である。
32-33 piano molt cresc-f 188-190 piano cresc-f
             

解釈:

183小節のViolaについては調性が提示部と変わったので「はっきりと」くらいの意味だと思います。

188-190については何かの意図があるのでしょうが分りません。弦楽器の表現が押さえられますのでその結果としてピアノパートは再現部の方が強調される結果になります。提示部ではsffという激しい表現のあと第2主題に接続しています。再現部ではもうおなじみになっている第2主題なので、平安に終了するこの楽章を意識して表現を弱く平坦なものに変えているような感じがします。

下記に、前後の流れが見えるようにビオラパートの楽譜を示します。


提示部


再現部

次に縦の関係がわかるようにスコアを示します。発想記号の差にご注目ください。



提示部での第2主題への接続



再現部での第2主題への接続

各パートを詳細に検討しますと、提示部では弦楽器が32−33小節は5声部でかかれています。これに対し再現部では189−190小節は6声部になっています。33小節のVc(Ces)への跳躍に期待がかかっているようです。ピアノのバスもそれをサポートしております。

提示部では激しい表現を意図し、再現部では落ちついたオルガンのような表現を意図していることがはっきりしています。効果をあげるために各パート単位での表現を検討する必要があります。
しかし、なぜこのような表現をするのかについては深い疑問が残ります

第2主題部比較表

提示部 再現部
小節 小節数 名称 調性 楽器 小節 小節数 名称 調性 楽器
38-41 4 T2a Es Va-Vn-Vc 195-198 4 T2a C Va-Vn-Vc
42-47 6 T2a' Es P-Vn-Va 199-204 6 T2a' C P-Vn-Va
48-51 4 T2b c St-P 205-208 4 T2b a St-P
52-61 10 T2c f mix 209-218 10 T2c d mix
62-68 7 T1による Es   219-225 7 T1による C  
69-72 4 結尾

es

  226-229 4 結尾 c  

第2主題部発想記号の比較表

提示部 再現部 コメント
小節 楽器 発想記号 小節 楽器 発想記号 発想記号
38-41 strings espress. p tre egalement 195-198 strings p espress 提示部のほうが発想記号が豊かである。
(egalement:平静に)
38-41 Pf pp 195-198 Pf sempre p
42 Vn pp 199 Vn dolce  
54 strings pp 211 strings none  

第2主題部については特に楽譜を例示しませんが、上の比較表に見るとおり再現部の方が発想記号の指示が全般に単純です。ここにはフォーレの不注意のように見えるところもありますが、全体を見渡した場合にこの傾向はやはり注意深く意図されたように見えます。常識的には再現部の方が丹念に修飾されるほうが普通です。

当初の熱情的な感情が、展開部を経て平静な感情に変化して行く楽章です。確かに第1主題が強奏されるのは再現部の開始だけでそれ以降はppでしずかに表現されています。1楽章はソナタ形式をとりながらも、全曲のなかでは経過的な役割を担っているようにみえます。

目次 分析表