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ピアニストにやさしいピアノ三重奏曲

Dec 23,2000
Rev:00
津留崎護

やさしいピアノ三重奏がないだろうか。おそらく世界共通のアマチュアピアニストの質問だと思います。この回答を得るべく色々な努力をしてみました。まず選曲するためにピアノの難しさについて次のように少し分析をしてみました。

1)演奏速度
室内楽のピアノがアマチュアにとってなぜ難しいのかといえばそれは演奏速度(テンポ)にあるといえるでしょう。自分一人でピアノを楽しむのならば速度についても、ミスタッチについても自分が許せば良いのですから問題になりません。ところが室内楽の場合にはどうしてもそうは行きません。

2)厚い和音
次のポイントは重すぎる和音だと思います。片手で四つも五つも和音をつかみながら速く動き回るのは至難の技です。譜読みはできたとしても、テンポが上がって行く望みは全くありません。無理をしたら腱鞘炎になってしまいます。

3)ややこしい譜面面
譜読みについては、演奏可能な楽譜であれば丹念にがんばればできますから大きな問題ではないと思います。弦楽器に比べて音程の心配がないピアノは譜読みの点では遥かに弦楽器よりも恵まれています。

4)リズム
リズムの要素には左手で6連音符、右手で7連音符のような難しさもありますが、むしろもっと音楽的なアンサンブルをするためのリズム感の問題があります。これはピアノの難しさとは違う問題だと思います。

以上を踏まえて選曲のガイドラインを次のように決めました。

全曲にわたって演奏テンポが速くなく、余り厚い和音が連続しない。少々譜読みがややこしくても気にしない。アンサンブルの難しさについても問題にしない。

対象になるピアニスト像として、音楽性があり真面目で努力家だが本格的なピアニストとしての訓練を受けていないので演奏能力にかなり限界があるピアニストが浮かび上がります。

選曲結果については次のような条件を満たしている必要があると思います。

1)パートナーがピアニストに不満を抱かずに済むこと。

2)その気になれば、演奏会を開く程度にまで仕上がる可能性があること。

3)全曲が演奏できること。

では、本論に入ります。

まずハイドンから見ていきますと大体が演奏可能な曲だと思いますが、最近の傾向もありVivaceとかPrestoの楽章は非常に早く演奏されます。それでゆったりしたテンポの曲を選びました。

Piano Trio No11 Hob XV:2 in F
最もやさしいピアノトリオです。第1楽章Allegro moderato 第2楽章Menuet 第3楽章Adagioのテーマによる変奏曲です。ごく初期の曲ですが本当にやさしく書かれています。きれいに弾けるヴァイオリニストと辛抱の良いチェロの協力が必要です。初めてあったピアニストに初見でお願いしますと頼める曲です。

Piano Trio in B Hob XV:8  
2楽章制でAllegro Moderato, Tempo di Menuetです。 とてもやさしく優雅な曲です。

Piano Trio in Es Hob XV:11
2楽章制でAllegro Moderato, Tempo di Menuetです。XV:8よりは少し忙しいですが問題ないと思います。

Piano Trio in D Hob XV:24、Allegro,Andante,Allegro ma dolce です。ピアノのパッセージは速いテンポでも弾きやすいと思います。また3楽章は3拍子の優雅なアレグロであり16分音符が出てきませんしPrestoで演奏される可能性もありません。

(HobXV:25は有名なジプシートリオです。ジプシートリオの終楽章は演奏効果をあげるためにかなり速い演奏が必要になります。)

Piano Trio in Es Hob XV:29
Poco Allegretto, Andante et innocentemente ,Presto assaiです。この曲は調性が少し変わっています。第1楽章ではEs-es-Es, 第2楽章はH、第3楽章はEsでドイツ風と書かれています。変ホ短調といえばフラットが五つ、ロ長調といえばシャープが五つです。ヴァイオリンとチェロに少しは苦しんでもらいましょう。第3楽章がPresto assaiでありこれでは返り討ちにあってしまうと思いきや、じつはMozartならば8分の6拍子で書いてAllegroかVivaceの指示をいれる曲です。

以上の4曲を推薦します。

 

次はモーツアルトということになりますが、お勧めする曲は

Piano Trio in Es KV495 (Cl,Va,P)
Andante, Menuetto, Allegrettoの構成です。第3楽章でピアノが華やかに動くところがありますが、Allegrettoの曲想ですから極端に早く弾く必要はないと思います。

Piano Trio in G KV496
Allegro, Andante, Allegretto の構成です。第1楽章は弦楽器にとって本当に嫌な曲で、ヴァイオリンもチェロもきれいには弾けませんのでピアノに部の良い曲かもしれません。

Piano Trio in B KV254(Divertiment)
Allegro assai, Adagio, Tempo di Menuettoの構成です。初期の作品で、他のピアノトリオに比べると内容的に見劣りするので余り演奏する気になりませんがレパートリには入ると思います。

以上の3曲を推薦します。残りの4曲 KV502/542/548/564は素晴らしい傑作ですが、実際に聴き栄えのする演奏をするにはプロ級のピアニストが必要だと思います。Mozartだからなんて思うと焼けどをします。

ベート―ヴェンの番になりますが当初はパスしようかと考えておりました。初期のOp1の3曲は激しいものですし、終楽章が大変なので止めたほうが良いのではないかと思います。Op.11「街の歌」は何とかなるだろうと思います。

ライフワークになるかも知れませんが、中期の作品の中のOp.70-2, Op.97「大公」あたりが意外な狙い目なのかも知れません。よく調べないと推薦できません。

シューベルトの登場です。

Piano Trio in B D28
1楽章だけの若い時の作品です。大変にやさしい曲です。これはお勧めできます。
D897 Notturno
も同時に演奏すると良いかと思います。

次に二つの偉大なトリオがあります。Op.99とOp.100です。どちらか一曲は推薦したいのですが、私はOp99の方がやりやすいと思います。理由はOp.100ではピアニスティックな効果が強調されているからです。特に4楽章はAllegro Moderatoと指定されていますが、テーマの性格からかなり速い演奏になってしまいがちです。それに微妙な響が要求されており普通のアマチュアでは手がでないほど難しいのかもしれません。

それに比べてOp99は弦楽器に比重がかかっておりチェロなどには大変な難曲です。この分ピアノに部があります。終楽章にAllegro Vivaceがありますがほのぼのとした明るいテーマは飛びきり速いテンポを要求しません。3楽章などでは一度は必ずヴァイオリンが落ちてしまうでしょうし弦に「しばし悶えて頂く」楽しみもあります。

Piano Trio in B Op.99(D898)
楽章構成はAllegro moderato. Andante un poco mosso, Scherzo, Rondoです。チャレンジしてください。

ロマン派の時代にはピアノ三重奏曲の名曲が沢山作曲されましたが、どれも一級の作品でピアノの比重も非常に高くなります。したがってロマン派になると途端に選曲が苦しくなります。

Mendelessohnには2曲のピアノトリオがありますが、二つともパスでしょう。SchumannについてはFairy Tale Op.132やFantasiestucke Op88などがよさそうな感じがしますが要検討です。ブラームスのトリオは完全にパスしなければ、、、という具合にだんだん望がなくなってきます。そして余り知られていない作品を探すことになります。

Donizetti Piano Trio in Es
やさしい作品です。さすがにオペラ作家の作品だけあって、朗々と歌わせてくれます。弦楽器もやさしいのですが、終楽章のチェロにはちょっと難しいところがありますが事前に少し指使いを考えておけば大丈夫です。とても楽しく演奏できました。

1楽章:Largo/Allegro, 2楽章:Largo, 3楽章:Andantino.。達者なピアニストならば初見ですぐ弾ける曲です。

Brahms Piano Trio Op.18 (Kirchnerによる弦楽六重奏曲第1番Op.18の編曲)
1楽章:Allegro ma non troppo, 2楽章:Andante ma moderato, 3楽章:Scherzo Allegro molt, 4楽章:Poco Allegretto e grazioso. 

Brahms Piano Trio Op.36 (Kirchnerによる弦楽六重奏曲第2番Op.36の編曲)
1楽章:Allegro non troppo, 2楽章:Scherzo Allegro non troppo, 3楽章:Poco Adagio, 4楽章:Poco Allegro 

ブラームスはキルヒナーによる2曲の編曲に非常に満足しております。またブラームスとキルヒナーはピアノの書法などについて互いに影響をし合っております。この編曲は普通ではなかなか実現しない弦楽六重奏を簡単に楽しめるように編曲されているせいか、ピアノパートもやさしく書かれています。ヴァイオリンとチェロが非常に満足することは請け合いです。

 その他の曲も色々あるのだろうと思いますが、ピアノで弾いてみるなどの作業が色々ありますので簡単には決定できません。Berwald, Borodin, Bruch, Chopin, Debussey, d'Indy, Dvorak, Frank, Grieg, Laro,  Rachmaninoff, Ravel, Schostakovich, Smetana,  R.Strauss, Tschaikowski などを調べましたがRavel や Tchaikowski のように絶対無理な曲が大半なのですが、可能性無しでもない曲がまだありそうです。

大分時間がかかりそうなので、Rev.00としては14曲を選んだところで一度筆をおくことにしたいと思います。